スマートメータに最適な高耐久性フィルムコンデンサ
2014年4月3日
高温多湿環境下での高い信頼性
世界各国の電力会社は自動検針や最適なエネルギー管理を実現するために、スマートメータの設置を進めています。EPCOSの高耐久性MKTフィルムコンデンサ B3293*シリーズX2コンデンサは、過酷な環境条件下でも、長期間にわたり安定して機能する高信頼性により、スマートメータに最適です。
定期的に現場に出向いて検針する経費を節約するために、自動検針システム(AMR)の導入が増えており、それにともないスマートメータの売上も堅調に推移しています。さらに、ほぼリアルタイムの電力消費量に基づく情報により、電力会社と顧客の双方はエネルギーの利用と生産を適切にコントロールできるようにもなります。
電力料計の約40%は屋外に設置されており、多湿に加えて極端な温度条件や急激な温度変化に曝されています。従来型の電力量計では、比較的単純な電気・機械的設計のため、屋外設置による深刻な問題は発生しませんが、電子式のスマートメータは、きわめて重大な課題を抱えています。スマートメータは通常、ACコンデンサが配電線に直列に常時接続された容量性電源を採用しています。ACコンデンサは容量性電源のキーパーツですが、高温多湿の環境では、従来型コンデンサでは静電容量が著しく低下してしまい、スマートメータの耐用年数が大幅に制限される可能性があるからです。
従来は、安全承認(UL、ENEC)を得るために、この特別な回路には一般的なEMI抑制コンデンサが選択されてきました。しかし、こうしたコンデンサは、電力量計の長期動作に必要な要件を満たすたよう特別に設計されているわけではありません。
高耐久性の新シリーズ
このため、いかなる気候条件でも何十年という期間にわたり、きわめて安定した静電容量値を保つコンデンサを開発することが、課題となります。その開発目標は、AC負荷や苛酷環境という条件下で、比較的で高い静電容量を安定的に保ち、X2クラスの安全規格認定を維持するものです。このような要件を満たすACコンデンサとして開発されたのが高耐久性MKTフィルムコンデンサ B3293*シリーズです。
いわゆる安全規格認定コンデンサには固有の要件というものはありませんが、X2コンデンサはIEC 60384-14およびUL 60384-14の承認を受けているので、多くの場合、顧客はX2コンデンサを選択します。ただし、X2コンデンサは、EMI抑制のために電力線と並列して機能するよう特別に設計されています。一方、容量性電源ではコンデンサが負荷と直列に接続されています(図1)。
X2コンデンサの使用例
一般的なX2コンデンサはEMI抑制のために配電線に並列接続して機能するように設計されています(図・左)。これに対し、容量性電源を採用しているスマートメータでは、コンデンサが配電線に直列接続されます(図・右)。
高い湿度レベルや比較的高い温度による過酷環境下でAC電圧が加わっている場合、メタライズドフィルムコンデンサは破壊が始まって内部電極(金属膜)のエッジ部が劣化し、結果として静電容量が低下する可能性があります(図2)。
内部電極(金属膜)のエッジ部が劣化したプラスチックフィルム
高温多湿およびAC電圧により、フィルム上の内部電極(金属膜)のエッジ部が劣化し、結果として静電容量が低下する可能性があります。明るい青色で色掛けした部分は、エッジ部の損傷箇所を示しています。
スマートメータ内のコンデンサに対する三重の脅威
スマートメータ内のコンデンサは、以下に示す三重の脅威に曝されています。
- 恒常的な高AC電圧
- 高温
- 多湿
このため、フィルムコンデンサB3293*シリーズの設計課題は、これらの条件下で高耐久性を実現することと静電容量の変動をできるだけ小さくすることです(従来型コンデンサは、これらの条件下で致命的な損傷を受けます)。
高AC電圧と高温に耐える設計
高AC電圧による電極の劣化を回避するために、B3293*シリーズでは、実質的に2つのコンデンサを直列接続した回路を形成し、各コンデンサのAC電圧を半分にする内部電極パターンを用いた設計となっています(図3)。これは劣化速度を著しく低下させる効果があり、きわめて重要です。さらに、こうした設計により安全性の向上という利点も得られます。もし、一方のコンデンサがショートしても、もう一方のコンデンサはその影響を受けずに、電源は動作を継続することができます。
B3293*シリーズの内部電極パターン
B3293*シリーズは、2つのコンデンサが直列接続された内部構造となっています。その結果、各々のコンデンサはそれぞれ半分の電圧を処理するだけですみます。
メタライズドフィルムコンデンサは、自己修復機能があるためきわめて安全性が高いのも特長です。過電圧が加わったとき、誘電体の弱い部分の内部電極(金属膜)が焼失して絶縁状態を修復させます。メタライズドフィルムコンデンサは、高い静電容量値、高いピーク電圧、高い使用温度レベル(105 °C)、およびX2クラスの安全性(最大1000 Vの過電圧に耐える特性)に対応する唯一の適切な選択肢となります。また、高い絶縁耐力(誘電強度)も特長で、B3293*シリーズでは回路内のコンデンサの寸法を過度に大きくする必要がなくなります。
現在使われている大多数のX2クラスのEMI抑制コンデンサには、ポリプロピレン(PP)フィルムが一般に使用されていますが、B3293*シリーズはポリエステル(PET)フィルムを基本としています。PETフィルムの誘電率は3.3で、PPフィルムよりも50%高い誘電体です。また、PETのほうが耐熱性にすぐれており、より高い使用温度(最大125 °C)に適したコンデンサとなります。
湿度の影響を受けない構造と材料
さらに重要な要件となるのは、コンデンサの耐湿性を改善することです。部品への湿気の侵入を防止するために、B3293*シリーズでは、特別に材料設計したケースや充填レジンを採用、またリード線の接続には金属溶射を採用しています。最も重要な改善点は、内部電極(金属膜)に亜鉛を使用しなかったことです。亜鉛は、X2コンデンサやACコンデンサによく使用されますが、湿気にきわめて弱いため、屋外設置のメータなど、苛酷な条件に曝されると、すぐに腐食します。B3293*シリーズでは、内部電極の材料のみならず、そのパターンも、耐湿性をさらに強化するように最適化されています。
このような設計基準の結果として、B3293*シリーズは最も苛酷な条件の下で非常に高い静電容量の安定性を保ち、すべてのX2コンデンサが準拠すべききわめて高い安全要件に適合しています。
苛酷な試験を通じて証明された長期の高信頼性
標準的な試験条件(85 °C、相対湿度85 %、275 V AC)の下では、従来型X2コンデンサの場合、静電容量の変動はわずか500時間経過後に10 %も低下するのに比べて、B3293*シリーズの場合は1000時間経過後でも2 %を下回っていて、大幅な性能改善が確認されています(図4)。実際には、同じ条件の試験で、2000時間経過後も静電容量の変動は2%未満を維持していることが確認されています。
B3293*シリーズと従来型X2コンデンサの静電容量の変動の比較
標準的な試験条件(85 °C、相対湿度85%、275 V AC)の下で、B3293*シリーズの静電容量の変動は、1000時間にわたって2 %を下回ったままであり、きわめて安定した特性を維持しています。
また、IEC 60384-14規格の厳密な要件およびスマートメータに要求される長期耐久試験でもB3293*シリーズの高い信頼性が証明されています。IEC 60384-14規格では、耐候性カテゴリの最大温度および定格電圧の1.25倍での1000時間経過後の静電容量の変動を10 %以内と規定しています。こうした苛酷な条件の下で、B3293*シリーズの2.2 μFコンデンサは静電容量の変動が10%の許容差の範囲内に十分に収まっていることを示しています(図5)。
苛酷条件下でのB3293*シリーズの耐久性に関する試験結果
さらに高い温度とAC電圧(105 °C、305 V AC)下でも、B3293*シリーズの静電容量の変動は6%未満にとどまっています。
B3293*シリーズX2コンデンサ
B3293*シリーズの開発により、現在、定格電圧305 V AC、最高使用温度105 °C、静電容量値範囲が47 nF~10 μFまで対応可能な、一連の新たなACフィルムコンデンサが利用可能となりました。これらはX2コンデンサの安全規格認定に関するIEC60384-14の要件を十分に満たしています。さらに、これらは新たなUL規格60384-14の認定を受ける初めてのコンデンサとなります。これらのコンデンサは、多湿環境でも高信頼性の性能を発揮するため、急増するスマートメータでの使用に最適です。B3293*シリーズのその他の代表的な用途としては、モーションセンサ、家電製品、ローリングシャッターなど、低電流で動作する製品のほか、費用対効の高い容量性電源などを挙げることができます。
表:B3293*シリーズX2コンデンサの主な仕様・特性
技術 | MKT巻回型、内部直列接続 |
耐候性カテゴリ | 40/105/56(−40 °C/+105 °C/56日間の耐湿試験) |
耐燃性カテゴリ | B |
静電容量範囲 [µF] | 0.047 ~ 2.2 µF |
定格電圧(V AC) | 305 (50/60 Hz) |
最大使用温度 [°C] | 105 |
リードピッチ [mm] | 15 ~ 37.5 |
安全認証(最大2.2 μF) | IEC 60384-14 / EN 60384-14 |
高温高湿試験 | |
温度 [°C] | 85 ±2 |
相対湿度 (RH) [%] | 85 ±2 |
試験時間 [h] | 1000 / 2000 |
電圧値 [V AC, 50 Hz] | 240 |
高温高湿試験後の許容値 | |
静電容量変化率 (ΔC/C) [%] | ≤ 10 |
誘電正接変化 (Δ tanδ) | ≤ 5 ∙ 10-3 (1 kHzのとき) |
絶縁抵抗 Rins [%] | ≥ 最小50または 時定数 τ = CR ∙ Rins |