TDK Electronics

突入電流制限用PTCサーミスタ

2016年8月19日

どんな場合にも安全に保護

突入電流から回路を保護するICL:Inrush Current Limiter (突入電流リミッタ)としてNTCサーミスタが電源装置で使われることもありますが、より最適なソリューションはPTCサーミスタの利用です。特に過酷な温度や出力状態において、PTCサーミスタは、より信頼性の高い保護機能を提供することができます。また、EPCOS のPTCサーミスタは、回路がショートした際の保護素子としても、すぐれた機能を発揮します。

モータ駆動システム、インバータやスイッチング電源などにおいては、電源が投入される際に、大きな電流が流れます。過度の突入電流は、電源装置の整流器などの電子部品に損傷や破壊を起こしたり、ヒューズが飛んだりするおそれがあるため、何らかの保護対策が必要となります(図1)。突入電流制限としては、基本的に2つのアプローチがあります。1つはICL(突入電流リミッタ)のような保護部品の電源回路への挿入で、もう1つは突入電流のピークが減衰した後に起動するアクティブなバイパス回路の使用です。これらは、それぞれパッシブICL回路、アクティブICL回路と呼ばれます。アプリケーションごとに適した突入電流制限の方法は、多くの条件に依存します。最も重要となるのは、定格電力、装置が突入電流にさらされる可能性が高い周波数、動作温度範囲、そしてシステムコスト要件です。

 Figure1_ja
図 1:

ICLがある場合とない場合の突入電流の比較

電流が限界レベルを超えると、ヒューズが飛んだり、整流器が破壊されたりします。これを防ぐために突入電流制限が必要となります。

NTCサーミスタによるパッシブICLソリューション

最大数W程度の超小型電源装置向けの突入電流制限対策としては、抵抗器を直列に負荷に追加することが、最も簡単で実用的なソリューションです。しかし、より高い定格電力の電源装置においては、固定抵抗の電力損失が、全体の効率を大幅に低下させるおそれがあります。こうした場合、NTCサーミスタは標準的なICLソリューションとなっています(図2)。

 Figure2_ja
図 2:

NTCサーミスタを用いたパッシブICL回路

NTCサーミスタは、当初は高抵抗ですが、温度が上昇するにつれ、抵抗は無視できるレベルにまで低下します。このため、NTCサーミスタは、定格電力が最大500 W程度の電源装置向けの標準的なICLソリューションとして使われています。

NTCサーミスタは、室温状態では抵抗が高く、温度上昇とともに抵抗が低下する素子です。ICL用のNTCサーミスタは、この高い初期抵抗によって、ピーク値の高い突入電流を効果的に吸収します。また、負荷電流とそれに続く自己発熱の結果として、NTCサーミスタの抵抗は室温時の数%にまで低下します。この特性により、連続動作時にはICLとしてのNTCサーミスタの電力消費は低減されるので、コンデンサが完全充電された後でも、NTCサーミスタを回路内に残しておいても問題ありません。その結果、低コストかつ容易なソリューションが実現できます。

ハイパワーでは低損失ソリューションに注目

電源設計においては、電力損失をできるだけ少なくすることがますます重要になっています。定格電力が約500 Wのレベルを超えると、パッシブICL回路によるソリューションの欠点が顕著になってきます。ICLが常に負荷に直列に入っていると、それが引き起こす電力損失が大きくなってしまうからです。装置の定格電力が高くなり、稼働時間が長くなるほど、この電力損失はより大きなものとなります。たとえば、 ICL用のNTCサーミスタが、装置の総電力の1%の電力損失を発生させ、電源の効率が92%の場合では、全体の損失の約12.5%はNTCサーミスタによることになります。

アクティブICLソリューションの利点

高い電力レベルでの標準的な手法は、リレーやトライアックを用いて突入電流のピークをいったん減衰した後に、ICLにバイパスする方法です。アプリケーションに応じて、このアクティブICL回路には、パワー抵抗器およびNTCサーミスタやPTCサーミスタ(図3)をICL部品として用いることができます。たとえば、PTCサーミスタは、定格電力が標準で数kWであるPHEV(プラグイン・ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)の車載型充電器(On Board Charger: OBC)に広く使用されています。アクティブICLの効果は500 W以上の高い定格電力において最も顕著ですが、より低い電力レベルのアプリケーションにおいても、性能を改善するため必要となる場合があります。この場合、システムコストがやや高くなりますが、電力損失を減少させ安価なスイッチや半導体の使用が可能となります。

 Figure3_ja
図 3:

アクティブICL回路

アクティブICL回路には、パワー抵抗器、NTCサーミスタやPTCサーミスタを、ICL部品として使用することができます。

PTCサーミスタによる効果的なICLソリューション

アプリケーションによっては、PTCサーミスタはICLとして、きわめてすぐれた性能を提供します。
NTCサーミスタの場合、電源投入時の抵抗は、周囲温度に依存します。非常に低い温度では、NTCサーミスタの抵抗はより高くなるため、充電電流はより低く、充電時間はより長くなります。その一方で、高い周囲温度では、NTCサーミスタはすでに低抵抗の状態にあるため、ICLとしてのNTC サーミスタの能力は制限されます。こうした温度依存性は、広い動作温度範囲のアプリケーションで、特に問題を引き起こす可能性があります。たとえば、寒冷地の屋外で使用される電源は、冬期にはNTCサーミスタの抵抗が十分に低下するまで、温められないことがあります。

逆に、たとえば給湯用の循環ポンプは、起動後はすでに非常に熱くなっていることがあり、NTCサーミスタが突入電流を制限できない原因となります。
電源オフ後のNTCサーミスタの冷却時間は、個々の装置やその実装方法、周囲温度などにより、通常30~120秒の間で変動します。NTCサーミスタは、完全な冷却後にのみ、再び突入電流を制限する準備が整います。多くの場合、冷却は迅速に行われますが、NTCサーミスタが十分に冷却される前に、効果的に突入電流を制限しなければならないこともあります。これは、DC リンクコンデンサの急速放電が起こりうるアプリケーション(たとえば、最新の洗濯機や乾燥機など、インバータ方式の家電製品)に当てはまります。また、必要な冷却期間が、短い停電などで不安定になってしまうこともあります。したがって、アクティブICL回路の設計は、NTCサーミスタがまだ低抵抗の状態のまま、突入電流のピークが発生する可能性がある状況を含め、あらゆる状況を常に考慮する必要があります。いずれの場合も、EPCOSの PTCサーミスタは、効果的なICLソリューションを提供します。

PTCサーミスタならではの自己保護特性

PTCサーミスタのICL機能は、通常の動作条件下では抵抗として働きます。電源が投入され、PTCサーミスタの温度が周囲温度と同じである場合には、種類に応じて20~500 Ω間の抵抗を持ちます。これは、突入電流のピークを制限するのに十分です。DCリンクコンデンサが十分に充電されると、PTC サーミスタはバイパスされます。

充電回路に故障が生じた場合は、PTCサーミスタならではの特性が回路を保護する役割を果たします。PTCサーミスタは、電流が流れるにつれ、加熱して抵抗値が大幅に増加します。したがって、この自己保護特性のおかげで、次の故障モードにおいて、PTCサーミスタがもともと持っているメリットが得られます。

  • コンデンサがショートした場合
  • DCリンクコンデンサの充電後に、電流制限素子がバイパスされない場合(スイッチング素子の故障)

これらのすべての故障モードには、電流制限デバイスへの熱ストレスという共通点があります。ICL部品がこうした事象によって破壊されないようにする効果的な方法は2つです。十分な定格電力のパワー抵抗器を使用すること、あるいはPTCサーミスタを使用することです。EPCOS のICL用のPTCサーミスタは、直接接続される供給電圧が、最大定格電圧であっても耐えるように設計されています。これらのPTCサーミスタは、自己保護特性をもつため、追加の電流制限は必要ありません。たとえばショートなどにより過電流が流れた場合には、PTCサーミスタの温度が上昇して抵抗値が大幅に上昇することで、電流値を致命的なレベル以下に制限します(図4)。

 Figure4_ja
図 4:

コンデンサをショートさせた場合のPTCサーミスタと抵抗器の電流曲線

コンデンサをショートさせた場合、PTCサーミスタを流れる電流は、限界値以下のレベルへと急速に低下します(青)。しかし抵抗器では、電流は一定の高いレベルの値のままです(赤)。

 Product_ja

このように、EPCOS のPTCサーミスタは、さまざまなアプリケーションにおけるアクティブICLソリューションとして使用することにより、きわめて大きなメリットを提供します。

  • 極端な動作温度でもICL機能は影響を受けません。
  • 通常動作中常に冷却されているので、負荷が遮断されるとすぐに効果的な突入電流制限が行われます。
  • 回路の誤動作による過負荷電流に対して自己保護機能をもっています。

EPCOS のICL用PTC サーミスタの幅広い製品ラインナップにより、厳しい温度条件下における大きな突入電流やショートなどから電源装置を確実に保護することができます。その代表的な製品セレクションを以下の表に示します。なお、これらは「ICL自己保護パワー抵抗器サンプルキット」(発注コードB59003Z0999A099)に含まれています。

表: PTC ICLの主要特性

発注コードVmax
[V AC]
Vlink, max.
[V DC]
RR
[Ω]
Cth
[J/K]
サンプルキ
ットに含む
AEC-
Q200
プラスチックケース入り
B59213J0130A020            280400331.1
B59215J0130A020280400222.3
B59217J0130A020400620562.3
B59219J0130A0205608001002.3

B59105J0130A020

280400222.3
B59107J0130A020440620562.3
B59109J0130A0205608001002.3
リード端子型ディスク、コーティングあり
B59770C0120A070260370700.4
B59771C0120A0702603701200.6
B59772C0120A0702603701500.6
B59750C0120A070280400251.0
B59751C0120A070280400501.4
B59752C0120A070280400801.4
B59451C1130B070440620562.1
B59753C0120A0704406201201.4
B59754C0120A0704406201501.4
B59773C0120A0704406205000.6
B59774C0115A07044062011000.6
B59412C1130B0704806801202.1
B59755C0115A0705608005001.4


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